はじめに
今日から大晦日まで、「この論争には、今日、ここで結論を出そうシリーズ」
をやっていきたいと思う。
第一回の今日は、多くの家庭が頭を悩ませている「子どものスマホ問題」について、
率直に話してみたい。そう。スマホ論争だ。
「うちの子にはスマホはまだ早いかな」と思いつつ、周りの子供たちが持ち始めると「仲間外れになったらかわいそう」と考えてしまう。
そして一度持たせてしまうと、ルールを決めても守られず、気づけば、夜遅くまでゲームやSNS、動画に夢中。
こんな悪循環に陥っている家庭は、少なくないだろう。
僕は長年、小学生から高校生までの子どもたちの学習指導に携わってきた。
その中で確信していることがある。
それは、「ルールを決めても、結局、なあなあになってしまうなら、最初から『高校生になったらスマホ』と家訓で決めてしまう方が、子どもにとっても親にとっても、はるかに健全である」ということだ。
今日は、なぜそう考えるのか、そして「物分かりの良い親」を演じることが、実は子どもに対する無責任につながるということについて、詳しく話してみたい。
「1日1時間ね」が守られない理由
多くの家庭で、こんな会話が交わされている。
「スマホを買ってあげるけど、使うのは1日1時間まで」
「夜9時以降は使わない」
「勉強が終わってから」
立派なルールだ。しかし、現実はどうだろうか。
ルールが守られない3つの構造的理由
◎スマホの設計そのものが、依存を前提としている
まず理解して欲しいのは、スマホのアプリやゲームは、世界最高峰の心理学者や脳科学者が「いかに人を夢中にさせるか」を研究して設計しているという事実だ。
通知、「あと1回だけ」と思わせるゲーム設計、「既読」機能によるプレッシャー。
これらすべてが、大人でさえ抗うのが難しい仕組みだ。
自己管理能力が未熟な小中学生が、これに勝てるはずがない。
◎親子の力関係が逆転する
スマホを一度与えてしまうと、それを取り上げることは非常に困難となる。
なぜなら、子どもにとってスマホは単なる道具ではなく、友人関係、自己承認、娯楽のすべてが詰まった「生命線」になってしまうからだ。
取り上げようとすると、激しい反発、無視、時には暴力的な言動さえ起こる。
「約束を破ったから取り上げる」と言っても、子どもは泣き叫び、親は根負けする。
これが繰り返されると、約束そのものに意味がなくなるんだ。
◎「少しだけなら」の甘えが親にもある
実は、ルールが守られない最大の原因は、親の側にある。
「今日は疲れているから、スマホを渡しておけば静かにしてくれる」
「勉強を頑張ったから、ご褒美で少し長く使わせてあげよう」
「友達と約束があるみたいだから、今日だけは特別に」
こうした「例外」が積み重なることで、ルールは形骸化していく。
そして子どもは学習するんだ。
「親は結局、折れる」と。
これが悪夢の始まりだ。
なぜ小中学生にスマホは早すぎるのか。 脳科学と教育現場からの証言。
発達途上の脳には刺激が強すぎる
人間の前頭前野(理性的な判断、自己制御、計画性を司る脳の部位)は、20代半ばまで発達し続ける。
小中学生の時期は、この部位が最も未熟な時期だ。
一方で、快楽や報酬を司る部位は早くから活発に機能する。
つまり、「やりたい」という衝動は強いのに、「やめなければ」というブレーキが効かないのが、
小中学生の脳の特徴なんだ。
この時期にスマホを与えることは、まだブレーキの訓練をしていない子どもに、フェラーリのような高性能な車を運転させるようなものなんだ。
学力への深刻な影響
当塾では、毎年多くの生徒を県立上位校に送り出しているが、そこには明確な傾向がある。
それは、「成績が安定して伸びる子どもは、スマホとの距離感が適切」という傾向だ。
逆に、成績が伸び悩む子どもの多くは、スマホに時間を奪われている。
特に深刻なのは、以下のような影響だ。
◎集中力の分断
スマホに慣れた脳は、「短時間の刺激」に最適化されてしまう。
TikTokの15秒動画
LINEの短文メッセージ
ゲームの数分間のプレイ
こうした「細切れの刺激」に慣れると、30分、1時間と続く深い思考ができなくなる。
数学の証明問題を考える、
長文読解で筆者の主張を追う、
英語の文章を丁寧に訳す、
こうした学習には、中断されない集中時間が不可欠なんだ。
◎睡眠の質の低下
多くの子どもが、就寝前にスマホを使っている。
ブルーライトは脳を覚醒させ、SNSやゲームの刺激は興奮状態を作り出す。
その結果、睡眠時間が減るだけでなく、睡眠の質も低下していく。
脳は睡眠中に記憶を整理・定着させるが、この過程が妨げられると、学習効果は著しく低下してしまう。
◎読書習慣の喪失
スマホを持つ前は本を読んでいた子どもが、スマホを手にした途端、まったく本を読まなくなる。
これは珍しいことではない。
読書は、語彙力、読解力、思考力、想像力のすべてを育む、最高の学習ツールだ。
それが失われる代償は、計り知れない。
「デジタルリテラシーは高校からでも間に合う」という現実
ここまで読んで、「でも、デジタル時代にスマホを使えないのは困るのでは?」と思われるかもしれない。
結論から言おう。
高校生から始めても、デジタルリテラシーは十分に身につく。むしろ、それで十分だ。
若者の吸収力は驚異的
僕たちの世代を考えてみて欲しい。
20代、30代、あるいはそれ以降にスマホを使い始めた。
それでも、今では、日常的に使いこなしているじゃないか。
若い世代の吸収力はさらに高い。
高校生になってからスマホを初めて持った生徒が、数ヶ月で、周囲と変わらないレベルで使いこなせるようになる。
これは、何度も目にしてきた光景だ。
むしろ、高校生になってから使い始めた方が、「目的を持って使う」という姿勢が身につく。
小学生から漫然と使っている子どもより、よほど賢い使い方をするんだ。
だって、せっかく高価なスマホを買い与えても、小中学生が実際に使っているのはゲーム、SNS、動画じゃないか。
だったら、高校生から持てばいいんだ。
シリコンバレーの技術者たちの選択
興味深いデータがある。
スマホやSNSを開発している、あのシリコンバレーの技術者たちの多くが、自分の子どもにはスマホを厳しく制限しているのは有名な話だ。
彼らは誰よりも、これらの技術が人間の脳に与える影響を理解している。
だからこそ、自分の子どもには慎重なんだ。本当にひどい話だ。
僕たちは、この事実にもっと注目すべきではないだろうか。
「最初から高校生になったら」と決める5つのメリット
「高校生になったら持たせる」と最初から家訓として決めることには、どのようなメリットがあるのだろうか。
1. 交渉の余地を作る必要がない
最大のメリットは、議論の余地がないことだ。
「友達はみんな持っている」
「今度のテストで◯点取ったら買って」
「お年玉で自分で買うから」
こうした子どもの要求に対して、
「高校生になるまでは買わない。これは我が家の方針」と毅然と答えることができる。
この明確さは、子どもにとっても実は安心感につながる。
なぜなら、親の方針がブレないことが分かるからだ。
子どもは、一貫性のある親を信頼する。
2. 小中学校の貴重な時間を守ることができる
小学校6年間、中学校3年間の合計9年間。
この期間は、人生の基礎を作る最も重要な時期だ。
この時期にスマホなしで過ごすことで、子どもは以下のものを手に入れることができる。
◎深い集中力:中断されずに1つのことに没頭する経験
◎読書習慣:膨大な読書量が、すべての学力の土台になる
◎現実世界での人間関係:画面越しではない、生身の人間関係を築く力
◎退屈と向き合う力:退屈な時間こそ、創造性と思考力を育てる
◎自然な睡眠リズム:脳と体の健全な成長に不可欠
これらは、一度失うと、取り戻すのが非常に難しいものばかりだ。
3. 「責任」とセットで渡せる
高校生になったタイミングでスマホを渡すことには、大きな教育的意味がある。
「あなたは、もう高校生。自分で管理できるようになったから、スマホを持たせます。これからは、自分の責任で使いなさい。」
このメッセージは、子どもの自立心を育てる。
小学生のうちから持っていれば「与えられて当然のもの」になってしまうが、
高校入学という節目で渡すことで、「特別なもの」「責任を伴うもの」として認識させることができる。
4. 周囲との差は数年で消える
「スマホを持っていないことで友達関係に支障が出るのでは?」という心配は、もちろん理解できる。
しかし、長期的に見れば、その影響はほとんどないだろう。
高校に入学すれば、皆がスマホを持つ。
その時点で、小学生から持っていた子との差は、ほぼゼロになる。
一方で、小中学校で培った集中力、学力、読書習慣の差は、一生続く。
どちらが子どもの人生にとって重要か、明らかではないだろうか。
5. 親子の信頼関係が深まる
意外に思われるかもしれないが、明確なルールを持つ家庭の方が、親子関係は良好だ。
なぜなら、子どもは「親が自分のことを真剣に考えてくれている」と感じるからだ。
周りに流されず、時には厳しい決断をしてでも子どもの将来を守ろうとする姿勢は、
子どもに深く伝わる。
最初は反発するかもしれない。
しかし数年後、子どもは必ず理解する。
「あの時、親が自分を守ってくれた」
ということを。
「物分かりの良い親」という名の無責任
ここで、厳しいことを言いたい。
多くの親御さんは、「良い親でありたい」と願っている。
子どもに嫌われたくない。
子どもを悲しませたくない。
そう思うのは、親として自然な感情だと思う。
しかし、その優しさが、子どもの未来を犠牲にする無責任さになっていないだろうか。
「かわいそう」という感情の危険性
「周りの子はみんな持っているのに、うちの子だけ持っていない。かわいそう」
この感情は、親として当然のものだ。
しかし、冷静に考えてみて欲しい。
一時的な「かわいそう」と、長期的な「不利益」のどちらが重大だろうか。
小中学校の数年間、スマホを持たないことで、多少の不便や疎外感を感じるかもしれない。
しかしそれは、高校入学と同時に解消される。
一方で、小中学校の間にスマホに時間を奪われて失う学力、集中力、読書習慣は、
その後の人生全体に影響してしまう。
大学受験、就職、そしてその先のキャリア。
すべてに響いてくる。
どちらが本当に「かわいそう」なのだろうか。
「嫌われる勇気」こそ親の責任
親の仕事は、子どもに好かれることではない。
子どもの長期的な幸福を守ることだ。
そのためには、時に子どもに嫌われる決断をする必要があると思う。
◎「お菓子をもっと食べたい」という子どもに「ダメ」と言う
◎「宿題したくない」という子どもに「やりなさい」と言う
◎「スマホが欲しい」という子どもに「高校生になってから」と言う
これらはすべて同じだ。
目の前の子どもの要求より、長期的な子どもの利益を優先するという、親としての責任なんだ。
「物分かりの良い親」を演じて、子どもの要求に安易に応えることは、一見優しく見える。
しかしそれは、子どもの未来に対する投資を怠っているのと同じだと思う。
境界線を引けない親が生む弊害
スマホの問題は、実は氷山の一角だ。
子どもに明確な境界線を引けない親は、他の場面でも同じパターンを繰り返す。
◎夜更かしを止めない
◎ゲームの時間を制限できない
◎宿題をやるまで見守れない
◎不健康な食習慣を改善できない
こうして育った子どもは、
自己管理能力が身につかず、常に誰かに甘えることを前提に生きるようになってしまう。
これは、決して子どものためにはならないだろう。
「高校生になったら」を成功させる方法
それでは、実際に「高校生になるまでスマホは持たせない」という方針を貫くには、どうすればよいのだろうか。
1. 夫婦で完全に意思統一する
最も重要なのは、これだ。
夫婦のどちらかでもブレれば、方針は崩壊する。
お父さんとお母さんで話し合い、方針を100%合致させてほしい。
そして、子どもの前では絶対にブレない姿勢を見せることだ。
「お母さんはダメって言ってるけど、お父さんに頼めば買ってくれるかも」
と子どもに思わせてはいけない。
2. 「なぜか」を丁寧に説明する
ただ「ダメ」と言うだけでは、子どもは納得しない。
なぜその方針なのか、どんな意図があるのか、
これを丁寧に説明してほしい。
「あなたの集中力を守りたいから」
「今は学力の基礎を作る大切な時期だから」
「高校生になったら、責任を持って使えるようになってほしいから」
こうした理由を、愛情を込めて伝えることが大切なんだ。
3. 代替手段を用意する
連絡手段として本当に必要な場合は、キッズ携帯やGPS機能付きの見守り端末など、
機能を限定したものを検討してほしい。
また、家族で共有のタブレットやパソコンを用意し、「調べ物はこれでやりなさい」とすることで、
デジタル機器を完全に遠ざけているわけではないことを示すこともできる。
4. 「我が家の文化」として定着させる
「スマホは高校生から」を、特別なルールではなく、我が家の当たり前の文化として扱うことが重要だ。
「朝ごはんは家族全員で食べる」「挨拶は大切にする」などと同じように、「スマホは高校生から」を家族のアイデンティティの一部にするんだ。
そうすれば、子ども自身も「うちはそういう家だから」と友達に説明しやすくなる。
5. 高校入学時には責任と共に渡す
そして、約束通り高校入学のタイミングで、スマホを渡してほしい。
その際、「これからは自分で管理しなさい」というメッセージと共に、
具体的な使い方のガイドライン(夜は何時まで、食事中は使わない、など)を
一緒に決めることが大切だ。
ここで重要なのは、命令ではなく、対話によってルールを作ること。
高校生になった子どもには、自分で考えて決める機会を与えようじゃないか。
子どもの未来を守る決断を
ここまで、厳しいことをたくさん言ったかもしれない。
不快に思われた方もいるかもしれない。
しかし、これは長年子どもたちの成長を見守ってきた僕の率直な想いだ。
目の前の子どもの笑顔と、10年後の子どもの笑顔。どちらを優先すべきか。
答えは明らかだ。
「スマホを買って」とせがむ子どもに「ダメ」と言うのは、辛いことだ。
子どもが不満そうな顔をするのを見るのは、親として胸が痛むだろう。
しかし、その決断こそが、真の愛情だ。
当塾では、小中学生の間スマホを持たずに過ごし、高校で初めて手にした生徒たちが、多くの成功を収めている。
彼らは集中力があり、読書量が多く、深い思考ができる。
そして、スマホを「道具」として使いこなす賢さを持っている。
一方で、小学生から漫然とスマホを使ってきた生徒たちの中には、せっかくの才能を活かしきれていないケースも少なくない。
この差は、親の決断から生まれている。
あなたは、どんな親になりたいですか?
「子どもに好かれる親」ですか?
それとも、「子どもの未来を守る親」ですか?
両方を同時に手に入れることはできない。
選択が必要だ。
僕は、後者を選ぶことが、本当の意味での愛情だと信じている。
今日から、あなたのご家庭でも、この話し合いを始めてみませんか?
夫婦で、そして子どもと一緒に、スマホとの向き合い方を考えてみてほしい。
そして、もし「我が家も高校生になるまでは持たせない」と決断したなら、
どうか自信を持って、その方針を貫いてほしい。
周りの目は気になるかもしれない。
「厳しすぎる」と言われるかもしれない。
子どもからも反発されるだろう。
しかし、10年後、20年後に、子どもはあなたに感謝するはずだ。
「あの時、自分を親が守ってくれた」と。

