「この論争には、今日、ここで結論を出そうシリーズ」第五回は、「褒める論争」だ。
「子どもは褒めて育てましょう」
「叱るより褒める方が効果的」
「自己肯定感を高めるために、たくさん褒めてあげて」
こうした言葉を、至る所で耳にする。
しかし、本当にそれで良いのだろうか?
僕が長年、子どもたちを見てきた経験から、はっきりと言えることがある。
「過剰に褒めて育てられた子どもは、打たれ弱く、努力できず、現実から逃げる傾向がある。」
「叱る教育」への反動から広まった「褒める教育」は、極端に拡大解釈され、
「過剰な褒め」という新しい問題を生み出してしまったんだ。
過剰な褒めが生み出す5つの弊害
1. 「褒められること」が目的になる
過剰に褒められて育った子どもは、「褒められるために行動する」ようになる。
勉強も手伝いも、「褒められたいから」やる。
問題は、「褒められないことは、やらなくなる」ことだ。
本当に大切な内発的動機づけである自分がやりたいから行動する力が育たない。
2. 失敗を極端に恐れるようになる
「すごい!」「天才!」と浴びせ続けると、
子どもは「期待を裏切れない」「失敗したらもう褒めてもらえない」という恐怖を抱く。
結果、難しい問題に挑戦せず、新しいことを避け、簡単なことばかりやるようになる。
これが、成長の停止だ。
3. 現実的な自己評価ができなくなる
何をしても「すごい!」と褒められると、客観的には平凡でも「自分はすごい」と思い込んでしまう。
そうすると、中学・高校で現実と直面したときに、
「こんなはずじゃない」と混乱し、自信を喪失してしまう。
4. 努力する力が育たない
特に問題なのは、「能力を褒める」ことだ。
「頭いいね!」「才能あるね!」と言われた子どもは、
「努力しなくても自分はできる」「できないのは才能がないから」と考え、
努力する習慣が育たない。
心理学者キャロル・ドゥエックの研究でも、
能力を褒められた子どもは難しい問題を避け、失敗を恐れ、
努力を「才能がない証拠」と捉えることが示されている。
5. 批判や指摘を受け入れられなくなる
常に褒められて育つと、先生からの「ここが間違っている」という指摘だけで、
「否定された」と感じ、怒り、やる気を失ってしまう。
しかし、成長には適切なフィードバックが不可欠なんだ。
これは痛いよね。
「じゃあ、褒めてはいけないの?」への答え
答えは明確。
「何を」「どう」褒めるかが重要だということなんだ。
ダメな褒め方 vs 良い褒め方
【ダメな褒め方】 ✕「天才!」「頭いい!」(能力を褒める)
✕「完璧!」「すごすぎる!」(過剰に褒める)
✕ とにかく何でも「すごいね!」(無差別に褒める)
【良い褒め方】 〇 「毎日コツコツ練習したね」(努力・プロセスを褒める)
〇「諦めずに最後までやったね」(粘り強さを褒める)
〇「前よりも速く解けるようになったね」(成長を褒める)
〇「難しい問題に挑戦したね」(チャレンジを褒める)
ダメな褒め方は結果や才能を褒め、子どもに「自分は特別」と思わせてしまう。
良い褒め方は過程や努力を褒め、子どもに「努力すれば成長できる」と教えることができる。
結論は、褒めると叱るのバランスではなく、「誠実な関わり」。
ここまでの議論を踏まえて、僕の結論を述べたい。
「褒める vs 叱る」という二項対立ではなく、子どもに『誠実に向き合う』ことが本質である。」
これだ。
「誠実な関わり」とは
具体的には、以下のような関わり方だと思う。
事実を正確に伝える
良くできたことは、「これは良くできたね」と認める。
できていないことは、「ここは改善が必要だね」と伝える、
過剰に褒めず、過度に叱らず、事実を伝える。
努力とプロセスに注目する
結果より、そこに至る過程を評価する。
「頑張ったね」より「こういう工夫をしたね」と具体的に伝える。
失敗しても、挑戦したことを認める。
現実的な期待を持つ
子どもを「天才」として扱わない。
「普通の子ども」として、適切な期待を持つ。
できることとできないことを、冷静に見極める。
成長を信じる
今できなくても、努力すれば成長できると信じる。
その信念を、言葉と態度で示す。
焦らず、じっくり見守る。
批判と愛情を両立させる
「ここは良くない」と指摘することと、子どもを愛することは両立する。
むしろ、愛しているからこそ、厳しいことも言う。
その前提を、日頃から伝えておく(照れくさいけど、必要だと思う)。
日常での具体的な関わり方
【場面1:テストで100点を取った】
ダメな対応:「天才!」「すごすぎる!」「うちの子は本当に頭がいい!」
良い対応:「100点だね。毎日コツコツ勉強してたもんね。努力が実ったね!」
【場面2:テストで50点を取った】
ダメな対応:「何やってるの!」「もっと勉強しなさい!」「情けない!」
良い対応:「50点だったんだね。どこで間違えた? この部分は理解できてるね。この部分が課題だね。次はどうすれば良いと思う?」
【場面3:宿題を途中で諦めそうになっている】
ダメな対応:「頑張れ!あなたならできる! 天才なんだから!」
良い対応:「難しいね。どこで詰まってる?一緒に考えてみようか」
「叱る」ことの重要性
適切に叱ることは、子どもへの愛情の表現だ。
子どもが他人を傷つけたり、ルールを破ったり、危険なことをした時に、
しっかりと叱ることは親の責任だ。
叱り方のポイント
ダメな叱り方::✕「あなたは悪い子だ」(人格否定)
✕「いつもそうなんだから」(決めつけ)
良い叱り方:〇「友達を叩くのは、良くないよ」(行動を指摘)
〇 「なぜそれが良くないか、分かる?」(理由を考えさせる)
〇 「次からはどうすればいい?」(改善を促す)
そして叱った後は、なぜ叱ったのか理由を説明し、子ども自身を否定したわけではないことを伝え、
最後は抱きしめるなど愛情を示すことが大切だと思う。
終わりに 。「簡単な方法」はない。
子育てに簡単な答えはない。
必要なことは、一人一人の子どもを、誠実に見つめること。
この子は今、何に困っているのか。
この子の強みは何か、課題は何か。
この子には、今、何が必要なのか。
これを考え続け、時には褒め、時には叱り、時には黙って見守る。
その都度、最善の関わり方を悩みつつ、選ぶ。
「褒めて育てる」というスローガンに飛びつくのでも、
「厳しく育てる」という常識に縛られるのでもなく、
目の前の子どもに、誠実に向き合う。
その積み重ねが、子どもを本当に成長させると思う。
完璧な親である必要はない(そもそも定義がわからないし、無いと思う)。
ただ、誠実な親であればいいんだ。

