ご自身が大学進学を考えた頃のことを、少し思い出してみてください。
1990年代、あるいはそれ以前。
「大学に行くなら、やっぱり東京に出たい」
「全国から集まる色々な人と出会い、もまれる経験が自分を成長させてくれるはずだ」。
そんな風に考え、上京して東京の私立大学へ進学された方も少なくないのではないでしょうか?
僕もその一人です。
当時、東京のマンモス私大のキャンパスは、まさに「全国津々浦々から若者が集まるるつぼ」でした。
北海道から沖縄まで、様々な方言が飛び交い、価値観も背景も全く違う学生たちが、四畳半や六畳一間のアパートに集まって夜通し語り合う。
そんな「雑多でエネルギッシュな空間」こそが、東京の大学の魅力であり、醍醐味でした。
だからこそ、ご自身のお子様が志望校を選ぶ際にも、
「思い切って東京の私大に行ってみたらどうだ?」
「あそこには全国から面白い奴らが集まっているぞ」
と背中を押したくなる気持ちは痛いほどよく分かります。
しかし、厳しい現実があります。
それは、「今の東京の私立大学は、親世代が記憶しているような『全国から若者が集まる雑多な空間』ではなくなっている」ということです。
昔のイメージのまま進学先を決めると、
入学後に「こんなはずじゃなかった」「思っていた雰囲気と違う」というミスマッチが起きかねません。
今回は、その象徴的な例として「早稲田大学」のデータを紐解きながら、現代の大学選びにおいて冷静に考えるべきポイントをお伝えしたいと思います。
「全国区」から「首都圏ローカル」へ。早稲田大学の衝撃的なデータ
「私学の雄」とも呼ばれ、多様な学生が集まる代名詞でもあった早稲田大学。
バンカラな気風と、地方出身の苦学生が闊歩するイメージを抱いている方も多いでしょう。
はい。僕もこの雰囲気に惹かれ、早稲田に進学しました。
「人生劇場」、「青春の門」のイメージですよね。
しかし、約30年前と現在とで、学生の「出身地」の割合がどのように変化したかをご存知でしょうか?
1980年代後半から90年代にかけて、
早稲田大学の学生における「首都圏(東京・神奈川・埼玉・千葉)出身者」と「地方出身者」の割合は、おおよそ「50% 対 50%」でした。
キャンパスを歩けば、2人に1人は地方から上京してきた下宿生だったのです。
多様なバックグラウンドを持つ学生が半数を占め、独自の混沌とした活気を生み出していました。
多浪も多く、2浪、3浪はゴロゴロいましたし、僕の身近には、6浪という先輩もいました。
ところが現在(2020年代)、この比率は驚くべき数字になっています。
なんと、「首都圏出身者が約73%、地方出身者が約27%」にまで偏っているのです。
つまり、現在のキャンパスを歩いている学生の「4人に3人」は、実家から電車で通ってくる首都圏の学生です。
かつてのような「全国から人が集まるるつぼ」から、圧倒的多数を首都圏の学生が占める「巨大な首都圏ローカル大学」へと変貌を遂げているのが実態なのです。
これは早稲田大学に限った話ではありません。
慶應義塾大学やMARCH(明治・青山学院・立教・中央・法政)といった東京の難関私立大学の多くで、同じように「首都圏出身者の集中」と「地方出身者の激減」という現象が起きています。
なぜ「昔の雑多な雰囲気」は失われたのか?
では、なぜここまで急激に地方出身者が減り、首都圏の学生ばかりになってしまったのでしょうか?
その背景には、大きく分けて3つの要因が絡んでいます。
経済的ハードルの異常な高騰
最大の理由は「お金」です。親世代が学生だった30年前と比べ、日本の平均世帯年収は伸び悩む一方で、大学の学費は確実に上昇しています。さらに、東京の家賃や物価も高止まりしています。
現在、地方から東京の私立大学へ進学させる場合、学費に加えて年間150万円以上の仕送りが必要と言われています。4年間で総額1,000万円を優に超える負担に耐えられる家庭は、地方では一部に限られてきているのが現実です。
入試方式の変化と「推薦・内部進学」の拡大
昔は一発勝負の「一般入試」で多くの枠が争われていましたが、今は私立大学の入学者の半数以上が「推薦入試(指定校・総合型選抜)」や「附属・系属校からの内部進学」で占められています。
これらの附属校や指定校の多くは首都圏に集中しているため、必然的に首都圏の学生が多数派になるシステムが出来上がっています。
激化する「教育・情報格差」
一般入試の枠が狭まる中、難関私大に合格するためには、中高一貫校での早期教育や、高度なノウハウを持つ専門塾の力が不可欠になりつつあります。
こうした教育インフラは首都圏に一極集中しており、地方の高校から独学で挑むには、昔よりも遥かに高く険しい壁となっています。
現代の私大キャンパスライフは「洗練」と「同質性」
これらの理由から、現在の東京の私大は、非常に「スマートで洗練された空間」になっています。
学生たちは小さい頃から質の高い教育を受け、厳しい受験競争を勝ち抜いてきた優秀な若者たちです。
コミュニケーション能力も高く、身なりも洗練されています。
実家から通う学生が多いので、授業が終わればスマートに横浜や世田谷の実家へと帰っていきます。
それは決して悪いことではありません。
非常に落ち着いていて、勉学や就職活動に集中できる素晴らしい環境だとも言えます。
しかし、親世代がかつて経験したような、
「地方から出てきた泥臭いヤツと、都会の洗練されたヤツがぶつかり合い、価値観を揺さぶられるような雑多なエネルギー」
を今の東京の私大に過度に期待するのは、少し危険です。
同質性の高い、似たような経済環境・教育環境で育ってきた学生が多く集まっているのが、いまの東京の私大のリアルな姿です。
だからこそ、冷静な「進路選択」が必要です
僕は、決して「東京の私大に行くべきではない」と申し上げたいわけではありません。
うちの塾からも、たくさんの子が東京の私大に進学していますから。
東京には依然として最先端の研究施設があり、大企業の本社が集中し、インターンシップなどの機会も豊富にあります。明確な目的があるならば、東京での4年間は大きな財産になります。
しかし、「なんとなく色々な人がいそうだから」「昔はそうだったから」という漠然とした憧れだけで、多額の費用をかけて上京させる時代ではなくなった、ということです。
これからの進路選択では、以下のような視点が必要だと思います。
「東京に行けば多様な出会いがある」という前提を一度捨てる。
「何のために東京に行くのか(どんな学び、どんな機会を得たいのか)」を明確にする。
地元の国公立大学という選択肢を冷静に再評価する。(現在、地方国公立大学は教育の質や就職支援において非常に手厚い体制を整えており、コストパフォーマンスも圧倒的です)
大学は、お子さんが人生の方向性を決める大切な4年間を過ごす場所です。
「昔のイメージ」というフィルターを外し、現代の大学の空気感を正しく理解した上で、4年間を過ぎす環境を見極める必要があると思います。
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