北欧がデジタル教育をやめ始めた。それでも、日本の学校は逆方向に進んでいる
スウェーデンは、世界で最もデジタル教育を推進した国の一つでした。2018年に全学校でタブレットやPCの配布を義務化し、幼児教育からデジタルリテラシーを必修科目にしました。
その国が今、方針を大きく転換しています。
2022年、スウェーデンの教育大臣は「デジタル化は科学的根拠のない実験だった」と発言。2025年には幼稚園でのタブレット使用義務を撤廃し、2026年には全学校でスマートフォンを禁止する方針を決めました。紙の教科書を教室に戻すために、日本円で約365億円の補助金を投じています。
ノルウェーでも、子どもの集中力と長文読解力の低下が報告され、学校でのデジタル端末の使用に規制をかけ始めています。フランス、イギリス、イタリア、オランダも同様の動きを見せています。
一方、日本は今、GIGAスクール構想のもとで1人1台端末を配り、ICT活用を推進している真っ最中です。
「デジタルが悪い」という単純な話ではない
ここで注意してほしいことがあります。
「北欧がデジタル教育をやめたから、デジタルは悪い」。ネット上ではこの論調が広まっていますが、事実はもう少し複雑です。
スウェーデンが方針転換した背景には、教科書の質が保証されていなかった問題がありました。スウェーデンでは教科書の事前審査制度がなく、大量の広告を含む粗悪な教材が出回っていました。紙の教科書が手に入らない学校もあり、教師が教材を探してコピーする負担が増えていた。「紙への回帰」は、デジタルの否定というより、質の高い教材をすべての子どもに届けるための制度整備という側面が大きいのです。
タブレットそのものが悪いわけではありません。調べ学習、動画資料、プレゼンテーション。使い方次第で、学びは広がります。
問題は、「とりあえずデジタル」「入れたから使う」「使ってる感を出す」という運用の仕方です。
では、何が子どもの学力を下げているのか
スウェーデンの研究者や小児科医が指摘しているのは、大きく3つです。
一つ目は、スクリーン上での読書が深い理解を妨げること。画面をスクロールしながら読む行為は「流し読み」になりやすく、紙で読むときと比べて内容の記憶と理解が浅くなるという研究結果があります。
二つ目は、手で書く行為の減少。キーボード入力では、文字を書く・図を描くという身体的な動作がなくなります。手を使って書く行為が、脳への刺激と記憶の定着に重要な役割を果たしていることは、複数の研究で示されています。
三つ目は、集中力の低下。デジタル端末は通知が来る、他のアプリに切り替えられる、動画を見られる。学習のために渡した端末が、実際には遊びの道具になっている。スウェーデンの保護者たちは、まさにこの現実に気づき始めました。
この3つに共通しているのは、「デジタルという道具の問題」ではなく、「基礎を固める時期に、その道具が適切かどうか」という問題だということです。
日本の教室で、今起きていること
盛岡の中学生を10年以上見てきた実感として言います。
タブレットが配られてから、子どもたちの「書く量」は確実に減っています。ノートを取る代わりにスライドを写真に撮る。漢字を手で書かずに変換で済ませる。計算をアプリに任せる。便利になった分、手と頭を使う場面が減っています。
学校がタブレットを持ち帰らせるようになって、保護者から「気づくと遊んでばかりで……」という相談が増えたのも事実です。
もう一つ、教室で見ていて気になることがあります。最近、学校からオンラインで課題が出され、当日中の提出を求められるケースが増えています。その日に出された課題の締切が、夜の20時。塾に来ている時間に課題の提出に追われる生徒を見かけるようになりました。学校の課題を終わらせるためにタブレットを開き、そこから動画やアプリに流れていく。本来やるべき学校ワークの解き直しに使う時間が、どんどん削られています。これはやりすぎだと思っています。
さらに深刻な問題もあります。タブレットの教材に任せて、学校ワークそのものを配布しない教科が出てきているのです。社会科などで見られるのですが、タブレット上の教材は単純な○×や4択形式ばかり。選択肢を選んで正解・不正解が出るだけで、用語を自分の手で書いて覚える過程がありません。紙のワークがあれば「テストまでにこの1冊を仕上げる」という明確なゴールが立てられます。それがないと、何をどこまでやればいいのか分からず、勉強の仕方そのものが分からなくなる。実際に、ワークが配られない教科で苦労している生徒が増えています。
当塾では、学校ワークが配布されない教科については塾でワークを用意して配布しています。学校の対応を批判したいのではありません。ただ、紙のワークを手で解くという学習の基本が失われつつある以上、どこかがその穴を埋めなければ子どもたちが困る。これは仕方のない対応だと思っています。
誤解のないように言いますが、私はデジタルを全否定する立場ではありません。使い方次第で学びが広がるのはその通りです。ただ、中学生が定期テストで点数を取るために必要なのは、教科書を読み、ワークを解き、間違えた問題を手で書いて解き直すことです。スクリーンの中にその答えはありません。
鉛筆で書く。紙をめくる。行を目で追う。その身体感覚が、学力の土台を作る
スウェーデンの教育大臣は、方針転換にあたってこう述べています。「子どもたちに必要な知識を身につけさせたいなら、本物の本を読み、本物の紙に書き、本物の紙の上で実際の数字を使って数えるほうが、はるかに良い」。
これは、特別なことを言っているわけではありません。鉛筆を持ち、ノートに文字を書き、教科書のページをめくる。この当たり前の行為が、思考の土台を作っている。デジタル先進国が何十億円もかけてたどり着いた結論が、実はそれだけのことでした。
私が教室で10年以上やってきたことも、まさにこれです。教科書と学校ワークを使い、鉛筆で書いて解く。デジタル教材も映像授業も使いません。それで成果が出ているのは、合格実績が証明しています。
流行りのツールに飛びつくのではなく、目の前の教科書を最後までやり切る。その地味な積み重ねが、結果を出す一番の近道です。この考え方について詳しくはアンビシャスの考え方に書いています。
デジタルか、アナログか。その二択ではない
問うべきは、「その使い方は、その年齢に合っているか」です。
高校生が調べ学習でタブレットを使うのは合理的です。大学生がオンラインで講義を受けるのも当然です。でも、中学生が定期テストの点数を上げるために必要なのは、ワークを繰り返し解くことであって、アプリを操作することではありません。
速さより、深さ。便利さより、思考。
教科書とワークを最後までやり切る。
それだけで、子どもは変わります。
盛岡で子育て中の方は、こちらも読んでみてください。
→ アンビシャスの考え方
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「子どもの自由」という名の教育トレンドに対する私の考えは、こちらの記事にも書いています。
→ 「子どもの自由」という名の罠
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