「面白い授業」が、成績を上げるとは限らない
授業が面白い先生は人気があります。雑談が上手で、生徒を笑わせて、教室の空気を和ませる。退屈な授業より、楽しい授業の方がいいに決まっている。
そう思われがちですが、10年以上この仕事をしてきて、一つ確信していることがあります。
授業の「面白さ」と、成績の「伸び」は、必ずしも一致しません。
雑談を処理できる子と、できない子がいる
授業中に先生が話す雑談には、知識を深めるためのものもあります。歴史の背景にあるエピソード、数学の公式が生まれた経緯、理科の法則が日常のどこで使われているか。こうした話は、本題を理解するための補助線になり得ます。
ただし、それが機能するのは「本題がすでに分かっている子」に限ります。
基礎が入っていない子にとって、雑談は情報のノイズです。本題と雑談の区別がつかない。どこが「覚えるべきこと」で、どこが「おまけの話」なのか分からない。結果、全部が同じ重さで頭に入ってきて、何も定着しないまま授業が終わる。
もっと厄介なのは、「面白い話は覚えているのに、肝心の内容は覚えていない」という状態です。授業後に「今日の授業、何やった?」と聞くと、先生のエピソードは話せるのに、公式や用語は出てこない。楽しかった記憶だけが残って、テストの点数には繋がらない。
情報の取捨選択は、基礎があって初めてできる
ここで思い出してほしいのは、頭がいい子ほど全部を考えていないという話です。
成績上位の子は、授業中に「ここは大事」「ここはおまけ」と無意識に仕分けしています。基礎が頭に入っているから、新しい情報のどこが重要でどこが枝葉かが判断できる。雑談も、基礎の上に乗せれば知識を厚くする燃料になります。
でも、基礎が入っていない子にはその仕分けができません。すべての情報が同じ重さで押し寄せて、処理しきれずに流れていく。授業を面白くすればするほど、情報量は増える。情報量が増えるほど、基礎が弱い子は置いていかれる。
皮肉なことですが、「分かりやすい授業」を目指して雑談を増やした結果、分かっていない子がさらに分からなくなるということが起きます。
まず基礎を入れることに専念する
だからこそ、基礎知識を身につけさせることに専念した方がいい。これが私の結論です。
英語なら、まず単語と文法を叩き込む。数学なら、計算の手順を手が覚えるまで繰り返す。社会なら、用語と年号をセットで覚える。この段階で「面白さ」を追求する必要はありません。面白くなくていい。正確に、確実に、基礎を入れる。
その先にある「なぜこうなるのか」「どこで使われているのか」「歴史の裏にはどんなドラマがあったのか」は、基礎が入った後に自分で掘り下げればいい。興味を持った子は、自分で本を読み、調べ、考え始めます。その方が、先生に教えられるより何倍も深く刺さります。
基礎がないまま「面白い話」を聞かされるのと、基礎を固めた上で自分から知りたくなるのとでは、同じ知識でも定着の深さがまったく違います。
これは公教育にこそ当てはまる
公教育の教室には、基礎が固まっている子も、まだ不安定な子も、一緒に座っています。同じ授業を、同じ速度で受けている。
この環境で「面白い授業」を追求すると、基礎が固まっている上位層には効果がありますが、基礎が不安定な中位〜下位層には逆効果になりかねません。情報量が増えるほど、処理しきれない子が増えるからです。
公教育の役割は、全員に基礎を確実に身につけさせることだと思います。面白さや深さは、基礎の上に各自が積んでいくもの。順番を間違えると、「授業は楽しいのに点数が取れない」という子が量産されてしまいます。
最近、学校でもタブレットやAI教材を使った「新しい学び」が広がっていますが、ツールが変わっても原則は同じです。基礎を入れる段階では、余計な情報を削ぎ落として、核となる知識だけに集中させる。この「引き算の発想」が、教育には必要です。デジタル教育の問題点についてはスウェーデンが紙の教科書に戻した話にも書きました。
探究型の授業も、基礎がなければ機能しない
同じことは、今注目されている「探究型授業」にも当てはまります。
探究型の授業は、生徒が自ら問いを立て、調べ、考え、発表する。「正解のない問いに向き合う力」を育てる。理念としては素晴らしい。異論はありません。
ただし、それが機能するには前提条件があります。探究するための基礎知識です。
歴史の流れを知らない子に「なぜ戦争は起きるのか」を探究させても、調べ方も分からなければ、調べた情報の真偽も判断できません。理科の基本法則を知らない子に「環境問題の解決策を考えよう」と言っても、議論の土台がない。結局、ネットで見つけた情報をコピーしてまとめるだけの「探究ごっこ」になってしまいます。
探究は、基礎知識という土台があって初めて深くなります。土台なしに探究させるのは、泳げない子をいきなり深いプールに放り込むようなものです。まずは浅いところで泳ぎ方を教える。そうすれば、いずれ自分から深い方へ泳いでいきます。
基礎を固める時期に、探究を優先するのは順番が逆です。特に公教育では、全員の基礎を確実に固めることを最優先にすべきだと、強く思っています。
「つまらない勉強」を、最後までやり切った子が勝つ
正直なことを言います。基礎を叩き込む作業は、面白くありません。
単語を覚える。計算を繰り返す。ワークを何度も解き直す。地味で、退屈で、達成感が見えにくい。でもこの段階を飛ばして「面白い」に行こうとすると、砂の上に家を建てることになります。
私の教室では、面白い授業はしません。その代わり、基礎を確実に定着させることだけに集中します。学校ワークを鉛筆で解き直して、×を○に変える。この地味な作業を毎日積み重ねた子が、結果を出しています。解き直しの正しいやり方については赤ペンで解き直す子はなぜ伸びないのかにも書きました。
面白い授業を求めるなら、他にいくらでも選択肢があります。でも、「基礎を最後までやり切らせてくれる場所」は、意外と少ない。そして、成績を上げるのは後者です。
この考え方の全体像はアンビシャスの考え方に書いています。アンビシャスが何を捨てているかはアンビシャスがやらないことをお読みください。
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